大判例

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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)5083号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕原告は被告にたいし石材装飾工事代金の請求をしたところ、被告はみぎ工事の注文者は、被告個人ではなく、訴外株式会社鶴見工務店であつて被告はその代理人として契約したに過ぎないと抗争した。これにたいし、原告はみぎ契約のさいに被告おいて右訴外会社のためにすることを表示せず、かつ原告は当時被告会社の存在すら知らなかつたのでその代理人たることを知りうべき事情になかつたから商法第五〇四条但書により被告にたいし右契約の履行を求める旨主張した。

判決は、本件については商法第五〇四条但書の適用ありと判断し、契約成立の経緯その他についてつぎのとおり説明している。曰く、

「次に商法第五〇四条但し書による責任の主張について検討する。前掲各証拠によると、本件請負契約の締結に関与した被告および鶴見善四郎は、いずれも訴外会社のためにするものであることを表示せず、右契約締結の前後を通じて双方にとり交された書類にも単に鶴見工務店とのみ表示し、同工務店が株式会社として別人格を有することを表示するごとき記載は全然なく、他方被告は訴外会社が設立されるずつと以前から原告会社の近くで個人として大工をしており原告会社代表者とは二十数年前からの知合いであり、また善四郎は被告の子で、これを大工として被告をたすけて仕事をしており、訴外会社の設立後は善四郎が代表者となつたものの、その事業の実態そのものは従前の個人営業当時と変るところもなく、同会社の現実の営業所である被告宅にも会社の存在を示すごとき表示はなされていないので、原告としては全く訴外会社の存在を知らず、鶴見工務店なる名称による営業の主体はあくまで個人たる被告で、善四郎はその補助者であり、したがつて本件請負契約の当事者も被告であると信じていたことが認められる。証人鶴見善四郎の証言中右認定に反する部分は信を措き難く、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。そして右認定の事実関係によれば、原告が右のごとく信じたことによつてはなんらの過失がないというべきであるから、被告は商行為であることの明らかな本件請負契約につき商法第五〇四条但書の規定によりその契約上の義務を履行すべき責任をまぬかれることはできない。もつとも本件請負契約の締結については被告と鶴見善四郎の両名が関与しており、被告のみがすべてを処理したわけではないこと前記のとおりであるけれども、当初契約締結に関する申入れをしたのは被告であるのみならず、訴外会社の営業の実態が被告一家の個人営業にひとしく、その主体が被告一家の家長ともいうべく、また実際上最も古くから大工として業務を営んでいた被告であり、善四郎はその補助者であるような外観を呈していたこと前記のとおりである事実にかんがみるときは、被告において本件請負契約に関し商法第五〇四条但書の規定による責任のすべてを負担すべきものと解するのが相当である」。

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